主に詩人として活躍しておられる著者の、六十歳を過ぎた頃の数年間、『婦人公論』という雑誌にエッセイを書いていたものをまとめた書籍です。
二十歳以上年上のアメリカ人と結婚し、長くカリフォルニアで暮らしている中で老境に入ろうとしている日々が語られているのですが、特に夫の老いと介護、そして死を経験する過程が前半の主旋律です。それを、全然湿っぽくさせずに、生きてる間に感じていた「むかついたこと」「死んじまえと思ったこと」をふんだんに織り交ぜながら、「それでも、死なれると、ただ、寂しい」という心境をそっと忍ばせているのです。
後半は、それでも続いていく日常がカラッと乾いた文章で綴られますが、そこここで過ぎた日々への哀惜が出てきます。言葉が「詩」に近づくのはそんな時なのかもしれません。
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