ええ人でおらんでええ。
頑張るママで
おらんでええねん。
中井希史子(児童発達支援施設すくすく)
頸部リンパ管腫という難病を抱えた子どもと、その親を取材したドキュメンタリーを見る機会がありました。先天的に首や頬、舌などに計一万を超える数の腫瘍を持ち、それらが口や喉を圧迫するという、非常に困難を伴う疾患でした。飲食や呼吸が妨げられるので、その子はもうすぐ二歳だったのですが、生後三ヶ月で気管を切開し、胃に穴を開けて栄養補給をしなければいけませんでした。十五分おきの痰の吸引をはじめとして、入浴時や、おそらく睡眠時にも、気の抜けないケアが常に必要とされます。
初めてその疾患の存在を知った僕は、映像で見ただけでも驚きと困惑で打ちのめされる思いでしたので、ご両親のくぐり抜けてきた葛藤にはとても思い至ることはできません。ただ、その子との日々を積み重ねてきたことで、お二人は穏やかな落ち着きを手に入れており、その朗らかな笑顔の奥には、運命を引き受けた人の覚悟がにじみ出ているのでした。
そんな中、お母さんが一度だけ涙を見せたシーンがありました。それは、自分が再び外へ働きに出ることを模索する中で、抱えこんだ悩みを相談に行った、支援施設の職員さんに上の言葉を掛けられた時でした。
「先生、撮られてるから…」と目頭を押さえるお母さんと、振り返ってカメラを認め「ちょっとやめてえや」と笑うその職員さんの姿が、尊く忘れがたいです。
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