全く思考していないこと。
それが、彼があの時代の
最大の犯罪者の一人になる
素因だったのだ。
ハンナ・アーレント『エルサレムのアイヒマン−悪の陳腐さについての報告』より
ナチス・ドイツのユダヤ人絶滅計画の中で、実際に「どこでどのように、何人をどうやって」…という実務面での指揮をとったのが、アドルフ・アイヒマンです。彼は戦後長く逃亡生活を送っていましたが、1960年、南米で捕らえられ、大きなニュースになりました。これだけの悪事の中核となっていた男ですから、心身ともにいかにも「大悪党」といったイメージを持たれていたようですが、実際に裁判が進んでいくと、非常に気弱で、思想もなく、「小悪党」とすら言えないそのたたずまいに、当時の人は驚いたようです。極度の従順さで、「ユダヤ人抹殺すべし」という党の方針を、最もよく実行した男が彼だった訳です。
一方私たちも、与えられた環境の中で、その時に応じて最善の選択をしながら生きています。暑くなったら冷房をつけ、遠くに行くときは車に乗り、収入を得るため働いて、物を作って売って買って使って捨てて…ぐるぐる回る輪のようです。この経済という輪の中以外の居場所など考えられない以上、その中でいかにうまく立ち振舞っていくかを考えるしかないわけです。それが全体として地球を、人間を、特に未来に生きる世代をどんなところへ導いていくかについては、「わたし」が考えることではないものとして。
アイヒマンという人がいた場所は、私たちが今いる場所と、そんなに遠くないのではと思えるのです。
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