何かを「善し」とする時には、
必ず「悪し」とされるもの、
「価値なし」とされるものが
生じてしまいます。
佐野明弘
縁あって、『いずれくる死にそなえない』という本を読みました。地域家庭医療に長く従事した医師による著作としては、穏やかでないタイトルですよね。内容は非常に思想的で、仏教的と言ってもいい部分も多くありました。主な論点を二つ、紹介させて下さい。
① 生き物にとって避けることのできない「死」を、無理に避けようとすることは、本来異常なことであり、それに伴ってはむしろ苦しみが増していく。
② 健康長寿を求める思想は、健康長寿以外を否定する思想であり、「命が大事」と言いながらその実、命に対する蔑視へとつながる可能性を孕む。
①は、「迷いとは、『思いへの執着』である」という仏教の視点と重なっています。いのちを我が思いで引き延ばそうとするのは迷いであり、そこから生まれる苦しみもある。どうでしょう。考えさせられますね。
②は、差別の問題に通じ、ひいては、人間の受け止め方そのものを問いかける大問題です。望ましい状態を目指すことは人間の本性ですが、それは同時に「望ましくないもの」を嫌い、ひいては排除しようとする性質でもあります。そのようなあり方をしていることに何の痛みも感じないことが、世界がこれほどに陰惨なものになる一番の原因なのかもしれません。
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